あたみのひと interview 戸井田 雄さん

あたみのひと interview

戸井田 雄さん

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美術作家。2012年より熱海市在住。空き店舗に残された傷跡を蓄光塗料

でトレースし、残された記憶の痕跡を光として現す「series時を紡ぐ

/Marks〜」など日常で見落とされている事象や、忘れられている事柄を

題材とした空間表現を行う。

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展示対象だったまちは

余白と腐葉土だらけ。

だからこそ、わくわく

する

 

「最初は鎌倉か葉山あたりにアトリエを構えようかと思っていたんですが……これもご縁ですね」

そう話す戸井田 雄さんは、武蔵野美術大学で非常勤講師も務める美術作家。二年前、新潟での長期滞在制作にあたり東京の家を引き払ったが、次に住む場所も家もなかった。

「そのとき頭に浮かんだのが、以前に仕事でお会いしたことのある市来さんだったんです。面白そうな“におい”がしていたのを思い出して」

連絡を取ると、家賃三万五千円の激安物件が見つかり、ためらうことなく十一月に移住完了。たが、プロジェクトはなかなか生まれなかった。

「もしかして、早まったかな……と考えたこともありましたよ」

状況が変化したのは昨年の春。“地域と地域” そして“地域とアート”の継続的な関係構築を目的とするアートプログラム「混流

温泉文化祭」の開催地が熱海温泉に決まり、戸井田さんは実行委員長となった。作品を出展することはあっても、展示を企画

するのは初めての経験。会場探しや調整など、「坂を転げ落ちるような」目まぐるしい日々が始まった。当時を思い出して戸井田さんは笑う。

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「ようやく自分のイメージが伝わっていく手応えを感じたのは十二月頃。『やっと戸井田さんのやりたいことが分かった』と言われて、応援してくれる人たちの心のギアも一段上がったんです。逆を言えば、やりたいことが分からない人間を応援してくれるなんて、すごいことですよね」

作家が長期滞在して制作・展示を行う「混流温泉文化祭」は遊休不動産やカフェなど、まち全体を会場にして行われ、大き

な話題となった。

「熱海には、遊休不動産や文化的背景など、腐葉土のように熟成した可能性と余白がある。キュレーターの存在や遊休不動産の使い勝手など課題も多いけれど、初めて訪れたときよりわくわくしています。“作家が食えるまち”を実現していきたい」

九月には若い作家の作品を購入できる「アートマーケット」を企画中。

「『混流温泉文化祭』は入口の場。あれで終わらず、自分の作品も含めてこれからもっと色々な作品を展示する場も作りたいと思っています」

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民家の床と地面を削り、床下に広がる土断面と地下水を可視化。根底/roots(2012)水と土の芸術祭・新潟