海辺のあたみマルシェ
2016年1月21日 23:18pm
つくるひとに出会うと
日々の暮らしや風景が
すこし、いとおしくなる
ふだん何気なく使っているモノや食材にも、それぞれにつくり手が存在する。そんな、ごくあたり前のことを思い出させてくれるのが「マルシェ(市場)」の存在。
つくり手と顔を合わせて言葉を交わしながら買いものをする時間。器に触れるたび、食材を手にするたびに、つくり手の顔が浮かぶ瞬間。それは、日々の暮らしをよりいとおしく感じさせるスパイスになる。
2013年11月、ついに熱海でもクラフト&ファーマーズマーケット「海辺のあたみマルシェ」がスタート。熱海を中心に、伊豆周辺の作家や生産者が集う地元のマルシェは、熱海暮らしの豊かさだけでなく、遊休不動産のリノベーションも目的としている。
つくり手と暮らしがつながり、まちにオーナーが増えて人が集う。
そのスタート地点となる熱海銀座通りへ、いざ。
暮らしの楽しみと、まちの
未来を育てるきっかけの場
今年7月に第5回目を迎えるクラフト&ファーマーズマーケット「海辺のあたみマルシェ」。
熱海銀座通りで昨年11月から2ヵ月に1度のペースで開催され、第3回目にして出店者数は倍増し、来場者は5000人を超えた。
出店者は、熱海や伊豆地域を拠点に持つ“地元”のクラフト作家や生産者たち。作品や食材を手にとりながら言葉を交わせば、彼らがどれほど丁寧に、真摯に日々ものづくりをしているかが伝わってくる。
第1回のマルシェ開催日、犬の散歩で偶然通りかかったという男性がスタッフに声をかけた。
「熱海に移住して数年経つけれど、こんなにたくさんの作家や生産者がいる地域だなんて知らなかった。次回もかならず来るよ」
マルシェで購入した食材をその場で味わえる「七輪焼きブース」では、文字通り老若男女があちこちで顔をほころばせていた。
海辺のあたみマルシェ実行委員会のスタッフは言う。
「地元の作家や生産者と交流できるマルシェを通じて、熱海に暮らす方たちの日常がより豊かになったり、地元のよさを再発見できるきっかけの場になれたら」
マルシェの会場となっているのは、熱海の中心市街地である熱海銀座通り。この場所で開催することにも大きな意味がある。
そもそも、マルシェの目的は「中心市街地の再生」。マルシェを通じて熱海を拠点に起業や創作しようと考えている人たちを発掘し、リノベーションしたまちなかの遊休不動産とつなげることで空き店舗を減らす。そのため、利益はすべてそれらの活動に投資されている。
拠点を作って人の流れを生み、エリアに活気を取り戻す。この動きが熱海銀座通りだけでなく、まち全体に広がったなら、日常の景色はどんな風に変わるのだろう。ヒントは、マルシェにあふれている。
生産者の思いに耳を傾け
、旬の野菜の調理法を教わり、家族と共有する食卓。料理に合わせて地元作家の器を選ぶ時間。お気に入りのギャラリーで出会う新たな友人。月に一度、夫婦で出かける音楽ライブでの贅沢な時間。友人に、「地元のおいしいもの」を選ぶたのしみ。休日に味わう無農薬米や濃厚なジャム。
マルシェという場は、人と暮らしをゆるやかに結ぶ糸のようなもの。どんな布に織り上がるかは、まちに暮らす私たちの腕次第なのだ。