日本一の完全手彫り印鑑職人が、この道50年こだわりつづけてきたこと。
2017年6月13日 19:00pm
熱海で印鑑を作ろうと何気なくインターネットを探していたら、
印章彫刻に際して一切動力を用いず、完全手彫りで全工程を執り行う、今や全国でも数少ない「完全手彫り職人」の一人・小見山 勉(雅号:臥雲)の店
というウェブサイトを見つけ、気になる、、、!と思って作ってきました!!
一見、町の普通の印鑑屋さんという雰囲気。
中に入ると、優しげな店主の小見山 勉(雅号:臥雲)さんが出迎えてくれました。
印鑑を作ってもらいながら、小宮山さんの職人人生についてお話を伺いました。
神奈川県出身の小宮山さんは、15歳のときに印章業の世界に入った、この道50年の印鑑職人です。
今から40年前の昭和52年、熱海に小宮山印房を創業されました。
インターネットや100円ショップで、手軽に印鑑が買える時代。
印鑑業者も99%が機械彫りになるなか、すべての工程を自らの手のみで行う「完全手彫り」にこだわり続けています。
「手彫り」と謳っている業者でも、仕上げのみ手で彫って、他は機械で作るところがほとんどだそう。
完全手彫りの印鑑職人は、静岡県ではただ一人になりました。
手彫りの工程です。
1本作るのに1時間。1日に5〜6本しか作れません。印鑑の価格は素材によって変わりますが、1,500円の印鑑でも10,000円のものでも、同じように時間をかけて作ります。
50年間、使い込まれた印鑑台。木が斜めになっていたりして印鑑の形にフィットするようになっています。すべての角がまあるくとれている、小宮山さんの歴史のつまった道具です。
たった5本の印刀で印鑑を作ります。たくさん道具があっても仕方がないそう。藤蔓を巻いてあります。使い込まれた道具は本当に美しい。
すべての工程が手彫りのため、全く同じものを作ることはできません。
同じものがないという唯一性に魅了され、何個も印鑑を作るリピーターが後を絶たないそう。
熱海のお客さんは月に数件で、ほとんどが小宮山さんの技術に惚れ込んだ、全国からの仕事依頼。
取材の間にも、宅急便で依頼の品が届いていました。
それらの依頼状には、文字や書体、形の指定など、依頼者のこだわりがたくさん書かれているそう。
「こだわりには応えたいと思うし、やりがいがある」
時代とともに安い速いの大量生産が出回る一方、価値のわかるお客さんと職人さんが、どこにいても思いをやりとりできるようになったのだなと思いました。
小宮山さんの数々の受賞作品。31歳の若さにして、一級技能士全国技能グランプリで1位を獲得し、日本一の職人に登りつめました。
小宮山さんがこれまでやってこれたのは、大切な人との出会いがあったからだそう。
師匠である小川瑞雲先生との出会いです。
小川瑞雲先生は、天皇家の印を作る印刻界の巨匠。
22歳で出会い、その後、離れていても通信教育のようにファックスで印影を送りあう師弟関係が続きました。
業界の仲間がみな機械彫りに切り替えていくなか、先生に迷いを打ち明けると「いいじゃないか、俺とお前だけ手彫りを続けていれば」と励まされました。
この50年間、こだわってきたことはなんですか、と問いかけてみると、
・誤字を彫らない
・手を抜くな
と実にシンプルな答えが返ってきました。
それだけやっていれば大丈夫、と瑞雲先生に教えられたそう。
「振り返ると、みんな手を抜いてしまった」
職人の手から機械への切り替え、それはつまり「手を抜いた」ということになるのでしょう。
「手を抜くな」をやり続けることの重さを感じました。
若かりし頃の小宮山さん。いまと同じ道具を使っています。
小宮山さんは、取材中に何度も、
「こうやって職人のこだわりや価値をわかってくれることが嬉しい。彫っていればなんでもいいという人が多い。」
とおっしゃられました。
50年やっていても、地元では知られざる日本一の職人芸。
熱海でもたくさんの人に、小宮山さんの仕事を知ってもらいたいと思いました。
【小宮山印房】
住所:〒413-0024 静岡県熱海市和田町14-4
TEL・FAX:0557-83-5937
営業時間:9:00~17:00
定休日:日曜・祭日
web:http://www.hankowa.jp/kmy.html
小見山臥雲の紹介:http://www.inbanshi.jp/kmy.html
大企業や工場がなくチェーン店も少ない熱海では、職人さんやまちの商店が元気に活躍しています。
手に職を持っている人が多いこと、この町の魅力の一つだなぁと感じます。
私の住む町内でも、暮らしていくのに必要なものは、人を頼っていけばだいたい済んでしまう。
人と人の間でモノやお金、思いが交換されることを感じて、毎日を過ごすのは、とても充足感のあることです。
熱海のすてきな職人さん、またご紹介したいと思います!
(Photo & Text by 古原彩乃)